今現在、画風を変更しようかどうか迷っているという人は少なからずいると思います。
そういった人たちに向けて、私が過去に画風を変更した時の話と、その時に感じた私なりの考えをお伝えできればと思います。今後の参考になれば幸いです。
画風を大幅に変更
30代中盤の頃、本格的にイラストレーターを目指そうと決め、本来描きたい毒々しいリアルテイストの画風を捨て、より収入が得やすいと思われる可愛い感じのキャラクター調のイラストへと、画風を変更したことがありました。
本来描きたい画風よりも「収入の可能性」を優先させたわけです
本来の画風
fa-arrow-down
変更後の画風
画風を変更したことによる影響
画風を変更したことで生じた影響は何か?それぞれまとめてみました。
・描いていて圧倒的に楽しくなくなった
・根拠の無い「収入の予感」は感じられるようになった
・生活の中で「本来の画風」が常に頭をよぎる為、むなしさを感じることが増えた
・家族に「前の画風の方が良かった」と言われた
・イラストの専門学校の先生に「収入を意識した絵になった」と言われた
・イラストの営業先の出版社に「わざとらしい感じがする」と言われた
・友人数人から「うまく言えないけど、なんか狙ってる感があるなあ」と言われた
・友人一人から「画風を変えて良くなった」と言われた
上記について、自分の感情の変化はある程度予想はしていましたが、正直周囲の反応には驚きました。
私の収入を得たいという欲望がもろに絵に乗り移ってしまい、それを簡単に見透かされてしまったのです。この時、改めて描き手の意思が絵を介して相手に伝わるのだなあという実感を持ちました。
そんなところです。
次に違った角度からも考えてみます。
もし画風を変更して収入が発生していたら?
結局収入は得られませんでしたが、もし画風を変更して収入が発生していたら・・・と仮定して考えてみます。
始めのうちはお金を稼げることへの喜びでとても気分が良いと思います。自分のイラストが雑誌や広告に掲載されたことでとてつもない優越感を感じられることと思います。
しかし、1年、2年と時が経過したらどうでしょう・・・。
やはり・・・本来の画風とはかけ離れた絵を描いている自分にジレンマを感じ耐えきれなくなり、結局は本来の画風を追い求める方向に戻ってしまうのだろうという予測が立てられます。
上記全てのことを踏まえて考えてみると、私にとっては画風を変更したことはほぼ無意味なことだったという結果になりました。
次に「画風を変更すること」自体を考えてみます。
画風を変更すること自体、良いことか?悪いことか?
絵描きにとって画風を変更することは良いことなのか?悪いことなのか?実例を元に私なりに考えてみました。
始めに著名な画家を例に出して考えてみます。
出典:artpedia
世界一有名な画家と言っても過言ではない「ピカソ」は、生涯を通じて画風が変わり続けた画家の一人です。「カメレオン」とさえ言われました。
そういった背景からピカソの画歴を語る時は大抵、ピカソの生涯をいくつかの時代(画風)に分けて語るのが一般的です。
以下、時系列で画風の移り変わりが象徴的な時代のみを抜粋してまとめてみました。
※それぞれの画風の詳細についてはこちらを参照して下さい。
「青の時代」(1901年~1904年)
出典:artpedia
「アフリカ彫刻の時代」(1907年~1908年)
出典:artpedia
「シュルレアリスム(超現実主義)の時代」(1925年~1936年)
出典:artpedia
「晩年の時代」(1968年~1973年)
出典:https://plginrt-project.com/adb/?p=47977
抜粋して時代を紹介しましたが、それぞれの時代で明らかに画風が変更されていっているのがわかると思います。
それぞれの時代での画風変更の原因について私なりに参考文献を元に調べてみた結果、
時代ごとでピカソの精神状態の変化や社会背景の変遷や師と仰ぐセザンヌの影響等、様々な要因があってその結果、自然な流れで画風が変更されていっているということがうかがえます。
次に違う例で、私の身近な話になりますが知り合いの画家から聞いた話で「買い手がつきやすい絵のスタイルに変更しようかどうか迷っている」という質問を画家志望の人達からよく受けるそうです。
その質問に対しその画家は「絵を見る人には描き手の欲望が予想以上に伝わるものだから、そういう欲望主体の目線で画風を変更するのは危険」と答えているようです。前述した私の画風変更時の周囲の反応がまさにそれです。
普段の生活の中でも、例えば初めて会った相手が少しでも自分に何かを売りつけようとしているのがわかった時、もうその時は相手に対して不信感しか抱かなくなるのと一緒で、それほど人間は「金の匂い」というものを敏感に察知しやすいということなるのでしょう。
また別の話で、私のイラストの専門学校時代の先生の知り合いで、若くして注目を浴びたイラストレーターがいたそうです。
そのイラストレーターは本来はアメコミ風のぶこつなイラストが好きだったのですが、たまたま描いたゆるふわ系のキャラクターのイラストがとある著名な出版社の人の目に留まり、瞬く間に売れっ子イラストレーターの仲間入りをすることになったそうです。
その当時は嬉しさと戸惑いが混ざり合ったような感情で、出版社に言われるがままにゆるふわ系のキャラクターを描き続けたそうです。
しかし時が経つにつれ、本来の自分の求める画風とのギャップに苦しみ、耐えられなくなった結果、ゆるふわ系のイラストを描くことをやめてしまったそうです。
さらにその時味わった精神的ひずみが影響したことにより、本来好きだったアメコミ風のイラストまで描けなくなり、結局はイラスト自体から遠ざかってしまったということらしいです。
こういった画風の変更についてのいくつかの実例を踏まえて考えてみると、
本来「画風を変更する」ということは、自己の欲望や何らかの圧力といった別領域からの影響を受けない、自然な形で発生するべきものであるということが言えると思います。
つまり、「画風を変更する」ということ自体が良い悪いではなく、その本人が本心から「画風を変更するべきだ」という思いに至るか至らないかといったところにかかってくるのだと思います。
従って、現在画風の変更を検討しているという人は、その気持ちの出所がどこなのか?何なのか?を自分自身に問いかけてみると答えが見つかる一つの手掛かりになるのではないかと思うのです。
最後に 「画風とは」
「画風を変更しようかどうか迷っている・・・」という人の気持ちは痛いほどよくわかります。
そういった人はまず、「変更しようかな・・・」と思った根本の理由を明確にして、その理由が「自分らしい絵の追及」から生まれた自然なものなのかどうかを考えてみる所からスタートすると、「純粋な答え」に到達できるかもしれません。
私は結局1年半ほど前に「本来の画風」に戻ることができました。そして画家に転身しました。
その経緯はありのままの自分を受け入れたからでした。細かく言えば年齢を重ねたからという要素も否めませんが。
ありのままの自分を受け入れたことによって、収入のことや周囲の評価からも解放され、素の自分に戻ることができました。
そして、今は自分の生き方を発信することで絵の魅力を伝えようという方向性に変わってきています。その為にこのブログを立ち上げました。
「画風」とは一人の人間の生き方が投影されたものであり、そうであるからこそ絵に力が宿るのだと思うのです。